今からちょうど4年前に、文化庁のとある公開ミーティングに参加した。そこで初対面の服部浩之さんが、レジデンスについてこんな感じのことを話していた。僕はそれを今でもよく覚えているし、とにかくそれは僕に途轍もない希望を感じさせた。こんな内容だ(違ってたらすみません。。)。
アーティストとしてのキャリアにおいては、なんとなく、例えば、仲間同士での自主企画展から、ギャラリーでの個展、美術館でのグループ展、芸術祭への参加、美術館での個展や国際展と、順番のようなものがあるように思える。でもレジデンスは、アーティストのキャリアのどの段階においても、いつだって、参加が可能だ。若手も、中堅も、巨匠も、少し休んで考えを整理したい人も、思い切った新作シリーズに取り組もうとしている人も、レジデンスに来れるのだと。

レジデンスのおおらかな風通しの良さ、と、それを支えるメンバーの尽力。外部であると同時に内部であるような存在。LONGSTAY Programのテーマを決めて欲しいと言われたとき、どのようなテーマが相応しいだろうかと、かなり悩んだことを覚えている。テーマが、このおおらかさを、減じさせやしないだろうか。ひとしきり悩んで、「考える葦」、とした。松戸を流れる江戸川と、個々の思考が推進力を持ちながらたなびく様子がちょうど重なり合うようで良いと思えた。キュレーションという行為は、啓蒙という近代ヨーロッパが思考錯誤してきた営みへの批判が伴う。そこから自由でももちろん良いのだけれど(各位勝手にやればよし)、僕としてはそれを引き受けたいのだ。というわけで2018年、テーマはパスカルの「考える葦」になった。服部さんの考えるレジデンスの魅力を、テーマの次元で、どう伝えられるだろうか。これが僕のなかでの裏コンセプトであった。


「だからよく考えるように努めよう。ここに道徳の原理がある。」
ブレズ・パスカル『パンセ(上)』(塩川徹也訳、岩波文庫、2015年)